シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」第4楽章
ー今週のテーマはシューベルトとその周辺。
ー最後は楽しげな「鱒」!
1819年の夏、シューベルトがオーストリア北部を旅行で訪ねたとき、一人の男に出会った。彼の名はパウムガルトナー。鉱山業を営む傍ら、チェロを嗜み、自宅に仲間を集めて演奏会を楽しむ、アマチュアの音楽家だった。彼はシューベルトを自宅に招き、お気に入りの歌曲「ます」を元に五重奏曲を作曲してほしいと依頼する。
シューベルトはすぐに構想を練り始め、その年のうちに五重奏曲「ます」を完成させた。作品を世に出してお金を得ることより、友人を楽しませることがシューベルトの作曲の原動力になっていた。
歌曲「鱒」はシューバルト(シューベルトとは別人)の歌詞に曲付けされており、歌詞はずる賢い漁師が罠を使って魚を釣り上げるさまを歌ったもの。しかし実際には、「男はこのようにして女をたぶらかすものだから、若いお嬢さんは気をつけなさい」という意味の寓意となっている。
シューベルトが歌曲で省略した最後は歌詞は次のようになっている。
いつまでも続く
青春の黄金の泉のもとにいるあなたがた
鱒のことを考えなさい
危険に出会ったら落ち着いてはいられない。
あなた方にはたいてい用心深さが欠けている
娘たちよ、見なさい。
釣り針を持って誘惑する男達を!
さもないと後悔するぞ!

 五重奏曲「ます」は、五つの楽章で出来ているが、その中で最も有名な第4楽章は、マスと釣り人が繰り広げる生き生きとした光景が目に浮かぶような音楽。
弦楽器のみで、マスが泳いでいる川を思わせるような滑らかな主題が提示された後、6つの変奏が続く。第4変奏はニ短調、第5変奏は変ロ長調になる。第6変奏(明示はされていない)はコーダを兼ねている。
第一変奏 ピアノのメロディーは、マスの動き、キラキラ…ピチピチ…とした感じが目に浮かぶよう。
第三変奏 ピアノが両手でとても早いオクターブのメロディーを奏でる。左手と右手で弾く鍵盤の動きが同じで、マスと釣り人が追いかけっこをしているような、マスの数が増えたような感じにも聴こえる部分。
第四変奏 ピアノが劇的な短調の和音を連打。マスが釣り人に追いつめられた様子が感じられる緊迫感に満ちたメロディー。
なお作曲を依頼したパウムガルトナーがこの曲を演奏することを想定したシューベルトは、チェロの美しいメロディーを盛り込み、彼の活躍の場を与えたと言われている。
演奏は、ピアノがバレンボイム 、ヴァイオリンがパールマン、ヴィオラがズッカーマン、そしてチェロがジャクリーヌ・デュ・プレ、コントラバスがズービン・メータ。
1969年8月30日ロンドン、ニュー・クイーン・エリザベス・ホールでの録画。みんなとても若い!!