プッチーニ:歌劇『トスカ』全編トレイラー
ー今週のテーマは、『トスカ』!
ー最後に全編を走馬灯のように振り返る。
「トスカ」と「フィデリオ」
「トスカ」は1800年6月という歴史的時点を背景にしたオペラだ。このオペラの本質を歴史的に考えるのに、「フィデリオ」と比較してみるのがいいと思う。
「フィデリオ」の舞台は16世紀スペインだが、ベートーヴェンは、そこにフランス革命の精神を吹き込んでいる。「フィデリオ」で牢につながれているのは政治犯で共和主義者のフロレスタン、それを助けようとする妻がレオノーレ、そしてフロレスタンを殺そうとするのが刑務所長のピツァロだ。「トスカ」で言えば、フロレスタンは画家カヴァラドッシ、レオノーレが歌手トスカ、そしてピツァロがローマの警視総監スカルピア、となる。
「フィデリオ」で夫婦愛が軸で、妻が夫を救出してハッピーエンドに終わる。他方「トスカ」では共和主義者の友人をかくまったことでカヴァラドッシが捕まり、恋人トスカはそれを助けようとしてスカルピアの罠のはまり、スカルピアを殺してしまう。そしてマレンコの戦いで共和主義のナポレオンが勝利した矢先にカヴァラドッシは10作けいに処され、トスカは身を投げて自ら命を断つ、というドラマティックな悲劇になっている。イデアリスティック(理想主義的)な「フィデリオ」とリアリスティック(現実主義的)な「トスカ」の対比、ということもできるだろう。
フランス革命の勝利とその波及の中、ベートーヴェンは、1804年に交響曲第3番「英雄」を書き、共和主義とナポレオンを切り離す。そして1805年にウイーンはナポレオンに占領されるが、ベートーヴェンは「フィデリオ」の作曲に没頭していた。
これに先立つ数年前、「トスカ」の舞台となるローマは王党派が支配しており、イタリアは小国分裂状態にあり、共和派の力は弱く、その後もイタリア統一まで長い道のりを要する状態だった。そうした歴史的背景の中で、「トスカ」の悲劇が生まれた、ということができるだろう。
この考察の続きは、他日を期すことにして、このイギリス。ロイヤル・オペラで「トスカ」を走馬灯のように振り返りたい。