モーツァルト:2台のピアノのためのピアノ協奏曲 第10番 変ホ長調k.365
ー今週のテーマは、モーツァルトとヨーロッパの色彩。
ーザルツブルグ時代のモーツァルトの傑作の1つ!
モーツァルトのザルツブルク時代最後のピアノ協奏曲。1775年から1777年にかけてザルツブルクで作曲された。従来1779年作曲とされてきたが、近年の研究によって、第1楽章と第2楽章はモーツァルトがおよそ1775年5月から1777年1月の間に用いていた五線紙に書かれており、協奏曲自体もこの時期に属すると見られる。
ザルツブルクの父の家で行われていた音楽会用に、彼自身と姉のために作曲したと推定されている。 3台のピアノのための協奏曲ヘ長調 K.242 をのちに2台用に編曲したのもあるが、最初から2台のために作ったものはこれが唯一。
父の手から離れ、母とともに出かけた職探しの旅。 生まれて初めて味わった自由。 しかし旅先で母を失い、そして最後の希望であったアロイジアにもふられて、モーツァルトは負け犬となってザルツブルクへ帰らなければならなかった。 退屈な田舎町に戻って最初に手がけたのがこのピアノ協奏曲だった。 失意のうちに帰郷し、嫌悪しっきていた大司教の従僕に戻されたにもかかわらず、オカールの言葉によれば、
「あれほど多くの失望のあとでは、悲壮で引きつった音楽が出て来て当然だろうと人は思う。 しかし驚くべきことに、そんなものは一つも見られない。」
刺激の乏しい地方都市に閉じ込められ、聴く耳を持たない尊大な田舎貴族たちに囲まれ、「ここではイスやテーブルに聴かせているようなものです」と言いながらも、後のウィーン時代の作品を思わせる傑作を次々に残したが、この曲もその一つ。
「このコンチェルトは幸福感、明朗、楽想案出のあふれんばかりの豊かさ、自分自身に対する喜びの作品である。 これは、創造の秘密と伝記的体験とがいかに僅かしか関連しないかを示す証拠である。 なぜならこの作品は、モーツァルトが生涯で味わった最も苦い幻滅のあとで成立したものだからである。」(アインシュタイン)
第一楽章 Allegro 変ホ長調 4/4 ソナタ形式 颯爽たる風格。
第二楽章 Andante 変ロ長調 3/4 三部形式 優雅にゆったりと流れる楽章で、細やかな音形が歌われる。
第三楽章 Allegro 変ホ長調 2/4 ロンド形式 活発なアレグロで、ユーモラスな明るさを含んでいる。

 演奏は、アシュケナージとバレンボイムのピアノ。バレンボイム指揮イギリス室内管弦楽団。若い頃のこの2人の共演は貴重。1972年の映像。