モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
ー今週はLes Arts Florissants(レザール・フロリサン)にフォーカス。
ー第一日目は今年生誕450年を迎えるモンテヴェルディの傑作の1つ、「聖母マリアの夕べの祈り」。
レザール・フロリサン(Les Arts Florissants)は、フランスで活動する古楽器オーケストラ及び合唱団。1979年にウィリアム・クリスティにより設立された。楽団の名称はシャルパンティエのオペラ『花咲ける芸術』から命名された。レパートリーの中心は17~18世紀のフランスを中心としたバロック音楽。昨2016年に久しぶりに来日した。聴きに行ったが、とても素晴らしい演奏だった。バロックというとわが国では、まずはドイツ・バロックで、バッハの厳しいイメージがつきまとう。しかしドイツ・バロックの源流がもイタリアやフランスのバロック音楽で、それはそうした世界とは異なり、楽しく透明な世界だ。古楽器オーケストラはこの20年くらいで増えてきて、フランスにもいくつかあるが、いわばそのスタートに当たるのが、レザール・フロリサン。合唱と管弦楽が一体の洗練された明るい色調の音楽が響き渡る。これはひとえに指揮者であるクリスティの性格や考え方を反映したところがある。
さてモンテヴェルディで重要なのは、「第二作法」。第二作法(Seconda pratica)は、第一作法の対義語で、モンテヴェルディとジョヴァンニ・マリア・アルトゥージとの論争の中で用いられた。モンテヴェルディは、厳格な対位法を重んじ不協和音を制限するパレストリーナやジョゼッフォ・ツァルリーノの第一作法から離れて、より自由な表現を重んじる初期バロック音楽を擁護し、これを第二作法と名付けた。このより自由に表現の第二作法こそ、魂の自由への道であり、その精神に満ちている作品の1つが「聖母マリアの夕べの祈り」。

13曲からなるが、最初の4曲は以下の通り。
1.Domine ad adiuvandum 「主よ,早く私を助けに」6声の合唱と器楽
“Deus in adiutorium meum intende”というヴェルシクルムが唱えられるのに続いて,華やかなレスポンソリウムが始まる。声楽はファルソボルドーネの慣習に従って同一和音上で歌い,一方器楽は《オルフェオ》冒頭のトッカータが転用されている。
2.Dixit Dominus 「主は言われた」6声の合唱/ヒポフリギア旋法
冒頭の定旋律と対旋律の対話による模倣中心の展開から次第にホモフォニックになり,ファルソボルドーネを経てポリフォニックなカデンツへと流れ込んでいくさまは,見事。バスによる定旋律を伴ったソプラノやテノールの2重唱を間に挿入しながら,6声の合唱は毎回異なる様式で展開されてゆく。モンテヴェルディの技法の多彩さが随所に現われている。
3.Nigra sum 「私は色は黒いが」テノール独唱
第2曲の後ろのアンティフォナとして置かれているのがこのモテットである。通奏低音に乗って歌われる技巧的な旋律は,宗教的作品というよりもオペラのアリアのよう。テクストは雅歌から採られているが,“surge(起きよ)”という歌詞の部分の音階的な上昇音型に代表されるように,言葉と音楽の見事なまでの統合が達成されている。
4.Laudate pueri Dominum 「主を讃えよ,しもべたちよ」8声の合唱/ヒポミクソリディア旋法
定旋律と対旋律が各声部で繰り返し歌われた後,ソプラノ,テノール,バスの順にそれぞれ2重唱が定旋律とともに次々と現われ,その終結と同時に8声の2重合唱が再びなだれ込んでくる。定旋律は曲全体を通じて歌われ,最後の“Amen”の部分では,メリスマを歌う合唱群の中からテノールだけが残り,静かに曲は閉じられる。
演奏は、クリスティ指揮レザール・フロリサン。全曲版だが、最初の二曲をまずお聴きいただきたい。洗練されよく響く合唱の美しさを味わっていただきたい。