ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番ヘ短調 作品57「アパッショナータ(熱情)」
ー今週は、現代の三人の俊英アーティスト。
ー今朝は3人目、ピアノのファジル・サイ。
ベートーヴェンの実り多い中期、交響曲では第3番(英雄)、ヴァイオリンソナタでは昨日の第9番(クロイツェル)、ピアノソナタでは第21番(ヴァルトシュタイン)といった傑作が次々生み出され、ベートーヴェンの作風は大きな転換点を迎えていた。
一方、彼の難聴は悪化の一途をたどっており、その絶望から1802年にはついにハイリゲンシュタットの遺書を書くに至っている。
そうした中、このピアノソナタは歌劇『フィデリオ』に並行する形で作曲された。『フィデリオ』のスケッチに混ざる形でこの作品の楽想が書きつけられており、作曲の開始は1804年であったことがわかる。
曲は燃えるような激しい感情を寸分の隙もない音楽的構成の中に見事に表出しており、ベートーヴェンの最高傑作のひとつに数えられる。
カール・ツェルニーはこの作品について「強大かつ巨大な計画をこの上なく完璧に遂行したもの」と表現したと評している。
第1楽章 Allegro assai 12/8拍子 ヘ短調ソナタ形式。
序奏を置かず、弱音による主題の提示に始まる。主要主題はいずれも5対1の鋭い付点リズムであり、第1主題は分散和音の下降動機(C-A♭-F)と旋律的動機(C-D-C)の二つから構成される。これらの動機は全楽章の主題に用いられている。主題はすぐに反復されるが、この際ナポリの六度が用いられ、この音程関係も全曲を通じて用いられることになる。
静かに交響曲第5番の「運命の動機」が現れて緊張が高まり、これに導かれた下降音型が静寂を破理、さらに展開していく。
第2楽章 Andante con moto 2/4拍子 変ニ長調 変奏曲形式。
威厳を湛えた穏やかな主題と、3つの変奏およびコーダからなる。主題は単純な旋律ながらも美しい譜例4で、前段、後段のそれぞれ8小節が各々繰り返される。
第3楽章 Allegro ma non troppo – Presto 2/4拍子 ヘ短調 ソナタ形式。
開始から強い減七の和音が打ち鳴らされる。導入部の音型が発展し、譜例5の第1主題が姿を現す。ここでも主題の内にナポリの六度の関係が用いられている。
演奏は、トルコ・アンカラ生まれのファジル・サイ。鋭敏な感性の持ち主。